鷹の雛は爪を磨ぐ。頼りなげな震える翼は巣の中でいまだ眠る。

「リーシャ!お飛び!」
轟く滝の間に間に、突き出た岩を渡りながら、後に続く少女にワルキューレは声を張り上げたわ。
苔むした岩は、とっても危ないの。だってつるつるしてるんだから!

巣の中の雛鳥みたいにリーシャが竦んでると、ミヤマは厳しく顎を上げたわ。
「あいかわらず、怯んで終わりか?飛べ!」

リーシャはミヤマを睨みつけると、120センチ程の間を、ぱんって飛んだわ。飛んだはずみに、懐に抱えていた麻袋から、さっき摘んだばかりのヤネバンダイ草がこぼれたの!
ミヤマの傍にいると、平坦な道筋ってないみたい!リーシャはすっかり筋肉が付いちゃったのよ!もちろん、少女らしい丸みも成長していたけれど!でもね…。
「おまえね、自分だけこちらへ移って、薬草をこぼしてどうする?何のためにこの道を辿ったのか、わかってるのか?」
リーシャはミヤマに呆れた声を出されて、しょんぼりしながら、ほっぺたをふくらませたんだわ!
「次にこぼしたら、さっきの場所へ戻って、採ってきてもらうぞ?」

リーシャは、薬草の入った袋を、ぎゅっと抱きしめたわ!きっ!ってミヤマを見据えて、挑戦的に口をとんがらせるの!ミヤマったら、そんなリーシャをにやにやしながら背中にして、滝の飛び石をぴょんぴょん先へ行っちゃうの!
さあ、滝を登り切ってしまうと、景色がさあっと開いて、緑の草原に、点々と朽ちた乳白色の柱が角を出してるの。その向こう側に、白くてそっけないお城が、ぽつんと建っているのよ。
あのね、このお城はテインシャンツーの領土のひとつで、「グイド」っていうの。ここは、ミヤマの生まれて育ったお城なのよ。
あら、今、そのお城の方角から、栗毛の馬に跨った、背の曲がりかけた年配の男のひとが走ってくるわ!

それを見たミヤマったら、「やれやれ!もう少し早く着いていれば、小言も言われなくてすんだんだが…」ですって!リーシャは切れかけた息を整えていて、それどころじゃなかったんだけど!
馬上の男がミヤマに声をかけたわ。

「まったく!あなたというひとは!館中の迷路を、わたしに這いつくばらせましたな!」
ミヤマは肩をすくめて、舌をだしたわ!

「さぞかし、いい掃除になったろうさ」
「ミヤマさま!扉から外に出ようという常識はないんですかな?」
「扉の外に、眼の利く番人がいないときならな」
馬上の番人は、馬からよっこらしょって飛び降りると、ミヤマの耳をおもいっきり引っ張っちゃうのよ。

「いでーででででで!ブラシッカ!無事に戻ったんだから」
リーシャは下を向いたまま、無表情にしていたわ…。
彼女の心ったら、氷の下にひそかに隠された、美しい炎みたいなの。
ブラシッカは、リーシャが疲れているのを見て取って、
「リーシャ。馬にお乗り。袋を摘んで」って声をかけたけれど、リーシャはまつげひとつ動かさずに、黙って立っているだけなの…。

ミヤマはそんなリーシャに手を伸ばして、頭を鷲掴みにして引き寄せると言ったわ。
「リーシャ。返事はするものだよ。お乗り!」
リーシャったら、不満そうに「はい…」って言って、ミヤマの手を借りながら馬に乗ったわ。
さっきまではとってもとっても疲れてて、「もうだめ!」って言いたい気持でいっぱいだったのに、今は楽しい冒険が終わってしまって、心がしぼんじゃった気分なの…。
まるで生まれたばっかりの雛鳥が、目にしたものを刷り込んでしまったみたいに、リーシャはミヤマのことを親鳥みたいに慕っていて、ふたりの時間にブラシッカが割り込んできたことが気に入らないのよ。
「リーシャ。馬に触れて。心を感じてごらん」
ミヤマに声をかけられて、リーシャはぱっとまつげを揺らすと、目の前の、大きな温かい生き物に、たった今気付いたみたいな顔をしたのよ。
リーシャの心に反応して、この優しい生き物は、ふう、って大きく息を吐いたわ。春は近いけれど、息はまだ白かったの…。大きな首を振って、自分の背中に乗った、小さな客人を背中で感じている…。

思わず笑顔になったリーシャは、彼の首の後ろを撫でて、せいいっぱい自分が安心できる存在だってことをアピールしたんだわ。その笑顔を見て、ブラシッカはちょっと胸が痛んだみたい…。

ねえ、あなたには、リーシャがいったい誰なのか、解らないかも知れないわね。
でもしょうがんないの。
だってリーシャ自身も、ホンリエンホイでミヤマに会う以前のことは、まったく覚えていないんですもの。
幾つの時かですって?12歳よ。

そんなに大きくなっていたのなら、ちゃんと覚えていることはある筈だ、ですって?
誓って本当よ!まったく覚えていないの…。
…そうよ。リーシャはあの都で、自分が受けた暴虐のことも、それまでの家族のことも、全部全部忘れちゃったのよ…。
…そうよ。リーシャって、あの乱暴されたかわいそうなこうさぎちゃんよ…。
夜になって、びろうどの帳が白いお城に降りる頃、天蓋付きの大きな大きなベッドで、ミヤマとリーシャは一緒に眠ったんだわ。
…いつかは記憶のふたが開いて、苦しんでしまうこともあるかも知れない…。
ミヤマはリーシャの寝顔を見ながら、備えをさせることが自分に出来ればいいけれど、って思っていたの…。

リーシャの髪は、明るい栗色。今は閉じられているけど、瞳の色は灰緑色よ。
鼻の頭にある、愛しいそばかすを、ミヤマはそっと撫でて、自分の頭を枕に沈めたの…。
お話の続きを待ってね…。

スポンサーサイト

テーマ : 自作連載ファンタジー小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

Baby pink amy

Author:Baby pink amy
 最近すっかり、へっぽこ日常日記と、オリジナルまんがに取って代わられています。天使と悪魔、女の子が好きな人、寄って行ってね❤(>ω<)❤
 リンク歓迎、一声かけてクダサイ❤
 コメント、心の支えにしております❤
(>∀<)❤

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

ツイッター
pixiv
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード